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愛媛新聞 1997・7・11

『取材最前線 -- 1万2000分の1 --』


 ほの暗い室内から、うちわにあおられて蚊取り線香のにおいが漂ってきた。 「なんか懐かしい感じね」と知人。和ろうそくのあんどんの近くに座ると、琴の音が潔く響き始めた。 松山市西垣生町の託老所「あんき」で六日、「琴と尺八のタべ」が開かれた。

「あんき」は、根太の抜けそうな古い木造民家。 3月からここで、痴ほうや障害があっても普通に暮らしたいと思う、在宅介護のお年寄りを預かっている中矢暁美さんが、「もっと気軽にいろんな人に来てもらいたい」と演奏会を企画。近所の人や通所者の家族ら約50人が耳を傾けた。

 演奏者はボランティア。あんどんは、福祉専門学校生たちが手作りした。近所の漁師さんが届けてくれたタコで作ったタコめしと、「あんき」をよく訪れるおばちゃん自慢のおでんで、一杯やりながら聴く澄んだ調べは格別だった。

 連載の取材で「あんき」に通ってみて、通所者が何でもできるし、時には何もしなくていいことに一番心を打たれた。それまで介護や福祉とは堅苦しく、はれ物に触るようなものと思い込んでいた。「あんき」のおかげで、重い問題を少しは身近なこととして考えられるようになった気がする。

 試みに、愛媛新聞記事 データべースで「福祉」を検索してみる。この50年余りで何と一万二千回、一ヵ月の紙面に「福祉」の文字が二百回も躍っていた。その膨大な量の中に、中矢さんのような頑張りと、お年寄りの現実の姿があることも伝えて行きたい。(文化部・早瀬昌美)



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